【劇団の話3】マドンナもうんちはしない

LINEのタイムラインに誕生日の友達が表示されていた。
学生時代のゼミのマドンナの名前。
その人に対してマドンナなんて初めて使ったし、ファンクラブがあったとかではないけれど、男だけの飲み会で可愛いランキングとか付き合いたいランキングで必ず名前があがっていた女性だ。

ある日、ゼミの友達のマンションで花火を見たあと、帰り道が一緒だった。
花火大会のときにわらわらと現れる本業不定の人たちが商う屋台の前を通るときも、浴衣姿のカップルでぎゅうぎゅう詰めの電車に揺られているときも、こんな美人と一緒にいるんだぞ、羨ましいだろと地球の男すべてを見下していたのを覚えている。
なんなら、生物としてのオスすべてを見下していた。

ゼミの中はおろか学部でも一番可愛くて、勉強もできて、女友達にも好かれていて、男子全員が付き合えるものなら付き合いたいと思っているのに自分みたいな下賤な者が告白なんて恐れ多いと卑下してしまうような高嶺の花だった。名字もなんか公家っぽかったし。

あのひとが30歳になるのか。
信じられなかった。アイドルがうんちをしないのと同じであのマドンナが30歳を迎えることが受け入れられない。マドンナという表現にもまだ慣れない。
寝付きの悪い子供にイライラしたり、食器洗いで痛々しい指にヒビケア軟膏を塗り込んだり、週末も接待ゴルフで子育てに非協力的な旦那に不満を覚えているかもしれない。
もう、学生の頃のマドンナはいない。結婚してるかどうかは知らないけど。

思い出の中のマドンナは歳をとらない。
それでも中華料理屋のおしぼりで恥ずかしげもなく顔を拭く自分は確実におっさんと呼ばれる領域に突入していた。餃子にビール。おっさんの確定演出。
グラビア雑誌でも見ていればもっと加点されていたかもしれない。
時間は確実に流れている。

マドンナの誕生日で話がそれていたけど、今日は劇団のウクライナ人の男の子が東京に拠点を移すということで送別会だった。だから中華料理屋にいた。
戦争の難民で、日本で声優になることを夢見て劇団に通う20代前半のウクライナ人。
背が高く、彫りが深く、くっきり二重で、西洋人特有のブロンドヘア。
こんなの東京のお姉さま方がほっとくわけないじゃないの。
その上、異国の地で夢を追って上京してくるなんて保護愛に目覚めてもしかたないやんけ。ああ?

目の前の上海やきそばにメンチを切りながら、大丈夫、彼なら東京でもうまくいくと思った。
そんなことより、これから無職になって放浪する30歳のおっさんを保護してくれる深田恭子はいないんですか。
不安になった。

ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です