【トルコの話5】チャンピンズの夜

選手が入場してくると、各サポーターはさらにボルテージを上げて歌う。
マンチェスターシティサイドではチームカラーの水色と白の旗が揺れている。
インテルサイドはコレオグラフィーによってIntelの文字を浮かび上がらせる。
ピアノの生演奏によるチャンピオンズリーグアンセムは鳥肌が立つくらい心が震えた。

テレビ中継で眠い目を擦りながら見続けた光景が今、目の前に広がっている。

この景色がみたかったんだよな。

地鳴りのような歓声と共にキックオフの笛が鳴る。
いまだにここが夢なのか現実なのか区別がつかないくらいフワフワしていた。




マレーシアのペナン島の宿で隣部屋の中国人の奇声にうなされている時、一つの記事が目に入った。
「6/10のチャンピオンズリーグ決勝のカードが決定! シティとインテル」

旅のスケジュールは去年1年かけて考えた。
ゆっくり東南アジアを回って西回りでヨーロッパを目指す。
チャンピオンズリーグの開催地であるトルコのイスタンブールに到着するのはまだまだ先の予定だった。

ここでイスタンブールに行ったら今後の計画は全て立て直しになる。
1年かけて旅と向き合った時間とチャンピオンズリーグ決勝を天秤にかけた時、答えはあっさりと出た。


この旅は自分がしたいことを叶える旅だ。
チャンスが目の前にあるのに後回しにする理由なんてないよな。
いつか、いつかって先延ばしにして、そのいつかが来る保証なんてない。
そうやって諦めていく人を何人も見てきた。


この瞬間、トルコ行きが決まった。
あんなにも遠いと思っていた夢の場所が手の届くところに来ている。
胸が躍って鳥肌がたった。

隣部屋の奇声すら聞こえないくらい、僕の気持ちはイスタンブールに向かっていた。




試合終了のホイッスルが鳴る。
マンチェスターシティの優勝。


明暗が別れるピッチを眺めながら、この人生を選んで本当に良かったと思った。
たぶん、イスタンブールに来ることを選んだからここにいるんじゃない。
今までの細かな人生の選択が自分をここに連れてきたんだと思った。

一つ一つの毎日が積み重なって自分を形取っていく。
この道のりに間違いなんてなかったと確信できた。


心臓の鼓動を和らげたくて大きく息を吸い込む。
夜も深まり少し肌寒い空気、ファンの歌声、歓喜と悲哀のピッチ上、少しぬるくなったビール、タバコの焦げた匂い。

五感で夢じゃないことを感じられる。

幸せだ。
ずっと観たかったフットボールの天井の試合。
ついに大きな夢を叶えた。


この1日は輝き今後色褪せることのない人生の宝物だ。



会場を後にしたのは26時を回った頃だった。
スタジアムの周りにはぼったくりタクシー。
それ以外に帰る手段などなかった。
多めに払ったタクシー代金。
この夢のための手数料だと思えば安いものだ。


ただ、あの運転手にまた会ったらひたすらにボコりたい

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