【センチメンタルな話3】ラスト・クリスマス

今年も残りわずかになった。
来年の5月に僕はマレーシアに向かう。
つまり日本での生活はあと半年で一区切りだ。


まだ半年ほどあるが年が明けてからは退職手続きとか旅の準備とかであっという間だろう。


不思議なもので時間に限りがあるとそれまでは当たり前に思っていたことにも感度が高くなっているような気がする。
ひとつひとつの出来事に対しても、もしかしたら旅立つまでで最後の○○になるかもなと思う。
この人と会うのも今日が最後になるかもしれない。

日本での一瞬を一つ一つ大切に思う。
ささいなことに喜び、何気ないことにも感動する。
これが普段から出来ていれば人生は同じものでも見え方が変わってくるんだろうな。

12月25日
日本で最後のクリスマスを過ごした。
今年はたまたま日曜日だったのでガールズバーはお休みで年内唯一予定が空いていた。

Sとは京橋駅で待ち合わせをした。
ぼくと同じ劇団に所属している21歳の女の子だ。
京都の芸大に通い、夜はガールズバーやキャバクラでバイトしているらしい。

クリスマスの2週間ほど前のレッスン終わり
『1年も付き合いがあるのにご飯行ったことないね』
『旅に出る前にいっぱい遊びたいね』
となった。

お互い悲しくも唯一空いていたクリスマスが僕らの初めてのデートとなった。

京橋を選んだのはお互いがアクセスしやすいのとクリスマスに京橋なんかでデートする人なんかいなさそうだし予約しなくてもどっかの店入れるやろという考えのもとだった。

予想通り京橋の商店街のお店はどこも空席が目立った。
僕らが入ったのは鳥貴族だった。

『クリスマスに鳥貴族なんて逆に思い出に残るよね』
と笑いあえる関係が心地良かった。


京橋でご飯を終えたぼくらは淀屋橋に向かった。
せっかくクリスマスだしイルミネーションを見に行こうとSが提案してきたからだ。
土佐堀川を北浜方面に向かって歩く。
中之島公会堂のプロジェクションマッピングは綺麗だった。
多くのカップルが足を止めて肩を寄せ合い眺めている。

『もう飽きたから梅田でどっかのお店入ろう』
とSは言った。

Sのこういうところが好きだ。
空気は冷え込んでいて手も耳も凍えていた。
そろそろ頃合いだと僕も思っていた。
もう少し時間があったらうっかりロマンチックな言葉でもかけてしまいそうだったしね。


22時を回ったタイミングで阪急梅田駅の改札までSを送った。
今から京都の祇園のガールズバーに出勤らしい。

『海外にいるとき遊びに行くね』
『ガールズバー辞めようと思っていたけど、お金ためなきゃだし頑張るわ』
とSが言った。

僕はSを見送りJR大阪駅に向かって歩く。
まだまだ他のカップルは帰る気配はなく寧ろここからがクリスマス本番の雰囲気すらある。

人の気持ちは変わっていくものだ。
もしSが変わりなく海外の僕に会いたいと思ってくれるならものすごく嬉しく思うだろう。
その時はその国でオススメのレストランに連れて行こう。
少し奮発しても良い。
『鳥貴族からここまで来たね』と笑いあえる日が僕は楽しみだ。

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