【ガールズバーの話7】ハッピーニューベイビー

新年早々、熱が出た。
サラリーマンとしての仕事とは別でガールズバーで働いた時間は毎月120時間を超えていた。
合計すると300時間労働をしていることになる。

厚労省が発表している資料によると月250時間以上の労働は過労死のリスクと常に隣り合わせの状況らしい。
正月休みに入って少し気が抜けたのかもしれない。

僕の今年のスケジュールは3月末で会社を退職し、ガールズバーもそのタイミングで卒業する。
マレーシア行きのチケットは5月のGW明けなのでそれまで地元の名古屋で日本でのやり残しを消化していくつもりだ。

関西での10年以上に渡る生活も残り3ヶ月だ。
この過重労働の日々も残りわずか。
大きなトラブルなく走り抜けたいと初詣では願った。


ガールズバーの仕事はじめは4日からだった。
女マネージャーとの新年の挨拶もほどほどにLINEの画面を見せられる。

『妊娠が発覚したので辞めさせていただきます』

薄暗い液晶画面にはYちゃんからのメッセージが表示されていた。
あまりにもあっけない文章。
今日休みますくらいのシンプルさに気が抜けてしまいそうになる。

21歳の女の子。
2歳位の小さな子供がいて、子育ての費用を稼ぐために半年前に入店してきた子だ。
年明けには昼の仕事の就職も決まっていた。

そのタイミングでの妊娠。
相手は最近付き合い始めた同じバツイチの男だ。歳も同じくらい。
ガールズバーの控室では嬉しそうに彼のことを話していた。明るかった髪の色も黒に染め直していた。
その彼は黒髪が好きなんだとか。

Yちゃんは目に見えて浮かれていた。
20代前半の盛り上がった若者には恋のブレーキなどないのだ。
後先など考えずに突き進める勇敢さと危うさがある。
感情と理性のせめぎあいで感情が圧倒的に勝利する。
それが良いことなのか悪いことなのかは僕が判断することではない。
はっきり言えるのはYちゃんは妊娠したということだけだ。


昔、テレビ東京でモテキというドラマが放送されていた。
その中の
『曲がるつもりのない角だったんだよね』
というセリフが印象に残っている。

人生で一番愛した女性にとって自分が「ただそこにいるだけの存在」だったことを主人公が理解するシーンだ。

生きていたら人生はいろんなことがおこる。
上り坂、下り坂、まさか
よく文章では見るけど言っている人はみたことない有名なフレーズ。

YちゃんのLINEのプロフィール画像は彼氏とのツーショットになっていた。
恋の盛り上がりの真っ只中にいる2人。

この2人にとって妊娠は予想していたことなのだろうかと思った。
前の男との間に生まれた子供とこれから生まれてくる新しい男の子供。
そこが曲がるつもりのない角でないことを祈るばかりだ。

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