【タイの話4】剥き出しのエロさを叫びながら恥ずかしげもなく立ってられるか

赤いカーテンをぬけるとそこには全裸の女性たちがテーブルの上に立って踊っていた。
目を見張るような景色だった。
これが現実なのかと少し疑ってしまう。
剥き出しになった乳房を片手で揺すりながらお酒を飲む男たち。
下半身だって触ることができる。
派手なBGMが店内に響いている。

僕はついにゴーゴーバーに入った。


その日はノブくんと夜の街に繰り出すことになっていた。
バンコクは男の欲望を叶える街だ。
マッサージパラーと呼ばれるすけべマッサージを筆頭に風俗店が街の至る所にある。
女の子を連れ出してホテルに直行できるゴーゴーバーもその一つだ。

ここにきてそれを避けることは、チーズバーガーからチーズを抜いてチーズバーガーを食べたと言ってるようなものだ。
それをしないとバンコクに行ったことにはならない。
自分でも何を言ってるかわからないけど、それだけバンコクの醍醐味だということが伝わったら嬉しい。


僕は人生で一度も風俗に行ったことがない。
毛嫌いしていたとかそういうわけじゃない。
それなりに安定して彼女がいたので必要がなかった。

と言いたいところだけど、彼女いるいないとか関係なくカッコつけてただけだ。

だって風俗に行くってことは、もうエロいことしたくて来ましたって発表してるようなもんじゃん。
侘び寂びなんてないじゃん。
「俺は今まさにエロい気分だ!」
と声を大にして言ってるようなもんじゃん。

剥き出しのエロい気分を曝け出すのが恥ずかしかった。
多分、それが僕がこの人生で一回も風俗に行けなかった単純な理由だ。


ノブくんがなんの躊躇いもなくゴーゴーバーかすけべマッサージ行きたいです。
と言ってくる姿は僕にはなぜかカッコよく見えた。

ただ抜きたいだけなのに。


その赤いカーテンの向こう側へは1人では行けなかっただろう。
ノブくんが僕をそこに導いてくれた。

遠くへ行きたければみんなで行けはまさにそれを表す言葉だ。


芸能人かと思うような美女がたくさんいる。
綺麗系も可愛い系も。
そして、皆が全裸で目が合うと微笑んでくれる。

あんな美女に全てを肯定するような微笑みを向けられて心が揺さぶられない男がいるんだろうか。


席に座ると太ももの上に女の子が腰を下ろす。
僕の方を振り返ってキスをする。
もちろん服なんて着ていない。
腕はどこに回したらいいのだろう。
他の男たちのように胸なのか、それとも下半身なのか。

腕のやり場をこんなにも意識したのは人生でこれが初めてだ。
そして、とにかく可愛い女の子だった。



彼女に言われるがままに案内されホテル代を払う。
さっきまで全裸だった女の子が、服を着て目の前にいる。
そして、ホテルの部屋に入ってすぐ服を脱ぐ。
あまりにも事務的な流れに彼女にとってこれは仕事なんだなと冷静に思った。

宿に帰ったら、「僕は服を着てる時のイチャイチャが好きなんだよ」と英語で伝えるには何と言ったらいいか調べようと思った。


全てが終わった後、タバコが吸いたくなった。
夜景を見て風を浴びたかった。

やはり、こういうことは好きな人とするもんだなと思った。


演技だとしか思えない声や、シャワールームでの当たり障りのない会話、ローションを塗って前戯もそこそこに始まる挿入。
お互いのことを知らなさすぎる2人の間にはただただ性欲をお金と交換したという事実しか横たわってなかった。

ここには深まりがない。
間違いなく彼女とはこれっきりだ。

さっき聞いたはずの名前すら覚えていない。
彼女は僕にとって何者でもない。
それは彼女にとっても同じだろう。

目の前の一夜をただただそれぞれの目的に沿って消化しただけだ。
何をしても湿り気のなかった下半身を思い出すと妙に虚しくなる。


日本にいる彼女に会いたくなった。
ただ風俗に行って、より大切さに気付きましたなんて絶対言えるわけがない。

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