【ガールズバーの話10】ダブルベッドの人は夢とお前は抱かない

シングルベッドで夢とお前抱いてた頃。

自分にとってどんな頃なんやろうとガールズバーの店内で歌いながら思う。
頻繁に来る王子と呼ばれる青年は延長確認のときにカラオケバトルを仕掛けてくる。
山田さんが〇〇点以上出したらあと60分いるね
と僕に言う。

僕がいるガールズバーのカラオケの採点はとてつもなく辛い。
可愛い女の子の前でちょっとイイところを見せようと十八番の曲を歌うお客さんの鼻を粉々にへし折る。折れた骨はさらさらと砂のように舞い、夜の風にむなしく溶ける。
ウイスキーをロックで流し込んでも胸の痛みは消えてくれない。

70点台が平均。たまに60点台もでる。
スター誕生なの?ここは。
辛口審査員でも入ってるの?
飲み屋の採点でそこまでのシビアさ求めてないんだよ。
顔も知らないカラオケメーカーの設計担当の胸ぐらをつかむ。

延長が入るか入らないかは店の売上にとって大きな問題だ。
だから僕はカラオケバトルのときばかりは真剣に歌をうたう。
ためらうことなく鬼と形容できる女マネージャーがあまりにも目に力を込めて圧をかけてくるのでマイクを握る手が汗ばんでしまう。

シャ乱Qのシングルベッドは僕にとって特別な曲だ。
20代なんてシングルベッドで夢とお前たちばっかり抱いていたからね。


ブログには突っ込みがいない。

とはいえ、20代の大半を現状と夢の間にある大きな乖離にもんもんとしながら生きてきた人間にとってシングルベッドは気のおけない友人と朝まで語りあうような感覚でこれからもこの歌詞には共感し続けるんだろうと思う。

好きな人の前でカッコよく夢を語ることに満足していた自分。
いつかは、将来は、○歳になる頃には。
きっと、絶対、間違いなく。
語るだけ語って気分良くなって、横に寝る彼女の柔らかい身体を抱き寄せて。
誇れるような努力なんてしてないのに、このままいっても自分は何にもならないことはわかっているのに。
冷えた頭に襲いかかってくる感情を振り払うように腰を振っていた、あの頃。

あの頃。


60分の延長が入ってほっとする。
女マネージャーは手を叩いて喜んでいる。
水くらい入れてくれよ、とマイクを置く。

あの頃から自分は何か変わっているのだろうか。
少しでも行動に移せているだろうか。
自分を大きく見せようと大風呂敷を広げていないだろうか。

5月から始まる世界への旅は僕をどこへ連れて行ってくれるのだろうか。

ガールズバーのバイトを終え家に戻る。
家といっても知人の会社の事務所に寝泊まりさせてもらっているだけだ。
ヨガマットを床にひき、横になる。
お前どころかシングルベッドもない。

シングルヨガマットでひとり、夢を抱いてた頃。

こんな歌詞だったらシャ乱Qはきっと売れてない。

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