【マレーシアの話5】音楽は鳴り続ける『ココロオドラナイ』

隣の部屋から中国人の奇声が聞こえる。
かれこれ2時間以上だ。
最初は誰かと電話しているのかなと思ったけど、流石にこのテンションで2時間会話が続くなんてガンギマリの2人で頭がおかしい。

いや、どのみち1人でも頭がおかしい。


この宿に到着した時、逆隣りの部屋のフィリピン人女性が、危険な中国人がいるから気をつけてねと言ってたのを思い出す。
気をつけようにも部屋貫通して声聞こえてるんですけど。
せっかく個室の部屋をとったのに幸先の悪いスタートだなと思った。


僕は、クアラルンプールを北に抜けペナン島のジョージタウンにいた。
ウォールアートで有名なここがマレーシア最後の街になる。
街を歩けばさまざまなアートが広がるこの街はインスタ映えにはぴったりだ。

有名なアートの前には中国人が行列を作って写真撮影を行っていた。
一生終わらない写真撮影会。
ポーズか表情か、何かが気に入らないのか繰り返される撮り直し。
観光地における中国人の侵攻は少し深刻だなと思った。

ヘイ、チャイナ!と声をかけてくる街のお土産屋さんには心の中でビンビンに中指を立てておいた。


少し歩くと海沿いの防波堤につく。
沈みかけた夕陽が街を照らす。
西の空は赤く染まり、東の空はすっかり夜になっている。
空が半分に分かれて色が違うのがとても綺麗だった。
夫婦の歌声とギータ演奏が防波堤に打ち付ける波の音と重なる。
その周りを走る子供たちや防波堤に腰掛けるカップルや家族。
みんながみんなしっかり聞いているわけではない。
それぞれが思い思いに生活している。
ただペナン島の人々の生活のバックグラウンドとして流れるこの演奏はとても心地がよく感じた。


一通り街を歩いて宿へ帰る。
もうこの街に来ることはきっとない。
ただ、この街を振り返る時、僕の頭の中では音楽が流れるだろう。


そして、あの中国人の奇声も。

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