【トルコの話2】裸になってフットボール

ダフ屋とムラートが口論している。
僕が買ったチケットがあまりにも高いから「俺がやつからお金を取り返してくる」とムラートは鼻息荒くダフ屋の男の方へと向かった。
目の前でアランがタバコを吸えよと僕にくれる。
何を言ってるかわからないけど、多分ムラートに任せとけ的な目をしている。

携帯を見せて自分の妻を自慢してくる。
僕も負けずに彼女の自慢をする。

大きな声が聞こえる。ムラートだ。
ムラートの正義感に感謝しながら、僕はアランと自分のパートナーの自慢合戦をしていた。



イスタンブールに到着した翌日
いわゆる定番の観光ルートを巡ろうと街を歩いた。
有名なモスクにオベリスクにバザール。
歩いて写真を撮ってまた歩く。
タイのお寺でも思ったけれど、2個目からはどれも一緒だった。

サンドイッチかハンバーガーか位の違いにしか見えなくなった。
挟んでるパンが違うだけだろ。


モスク近くのベンチに腰を下ろして考える。
自分の好きなもの。自分が何をしたら楽しめるかについて。

ちょうどその日にトルコサッカーリーグの最終戦が開催されることがわかった。
スタジアムの場所を調べる。
香川真司が所属したことでも有名なベシクタシュのボーダフォンスタジアム。

徒歩で約1時間。
タクシーを使うことが頭をよぎる。
ただ、こんな距離すら歩けないで旅を語るなと誰かに言われそうな気がしたので歩くことにした。


ムラートは全力を尽くしてくれたけどチケットのお金は返ってこなかった。
通常よりも高かろうが試合を見たいと思っていたので特に落胆する気持ちはなかった。

ただ、見ず知らずの外国人のために身体を張ってくれたムラートの優しさが何より嬉しかった。


白髪混じりの短髪で無精髭がよく似合っていた。
淡いブルーの瞳を細くして大きな声で気持ちよく笑う人だ。
僕の肩に手を回して頭をクシャクシャと触ってくる。
英語は通じないので、Google翻訳を使ってトルコ語での会話。

自分が伝えたいありがとうはこんなシンプルなありがとうじゃないのにともどかしかった。


ムラートと別れてスタジアムの中に入る。
芝生のピッチを見るだけで心が躍る。
自然と笑みが溢れる。
ついにヨーロッパサッカーのスタジアムに入った。


サポーターの歌声が響き渡る。
太鼓が選手を後押しする。

ここには子供も大人も男性も女性もない。
ただあるのはフットボールに熱狂している、本当にそれだけだ。
目の前の状況に怒ったり、笑ったり、喜んだり、悲しんだり。
勝っていると喜んでタバコを吸い、負けてると怒ってタバコを吸う。
トルコ人は本当にタバコを吸う。
喫煙率は100%なんじゃないかと思うぐらいに。
足元は吸い殻まみれだ。焦げた匂いもする。

スタジアムの空は熱気かそれともタバコの煙なのかわからないくらい白く曇っていた。

中指を立ててサポータ同士が煽り合う。
人間が剥き出しになる。
こういう光景が見たくてここに来たんだなと思った。


隣で女性2人と小さな女の子が大きな声で応援していた。
ハーフタイムに隣の女性から声をかけられた。

「どこから来たの?」

「日本」と答える。


微笑んで
「ウェルカム」と一言。

ほんの短いやり取りだったのに今、思い出しても心が温かくなる。
この国に来て良かったと心から思った。
その女性が美人だったのも思い出を補正する大きな要素だ。

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