【センチメンタルな話4】質問する前からその答えを期待してる

仙台国際空港には中部国際空港から約1時間のフライトで到着した。
意識して深く呼吸する。
新しい土地の空気を吸い込んでみる。

特に何も変わらない。
それもそうか。ここは日本だもんな。

世界一周に出る前に、東北に来てみたかった。
少し前、祖父の両親が東北出身だと、母から聞いた。
福島県西白河郡矢吹町。母親の苗字は矢吹。そこに自分のルーツがある。

それから何の縁もゆかりもないと思っていたのに、隣のクラスの少し気になる子のような感覚で東北を意識するようになっていた。

仙台国際空港から矢吹町へは電車で約4時間の道のりだった。
道中の景色は山、川、田んぼのヘビーローテション。ド田舎というタイトルで額縁をつけて美術館に展示したくなった。
あまりにも暇だったのでゆなちゃんにラブラインを送ろうとしたら携帯は圏外だった。
楽天モバイルは海外旅行者向け無電波トレーニングサービスを開始したんだと改めて感心した。

降り立った矢吹の駅からは
あ、この町何もないぞ
という気配がビンビンに感じられた。
見渡す限りの年期の入った一軒家。
謎に広い駅前ロータリー。
1時間に1本の電車間隔が途方もなく長く感じるくらい時間を潰すものが何もない町。

こんな何もない場所でおじいちゃんのお父さんとお母さんは出会って、結婚して、人生を終えていったんだ。
そう思うと何もない町なのに何かがあるように感じてくる。

小1時間あてもなく彷徨ってみる。
セブンイレブン、幸楽苑に養老乃瀧。
名古屋から半日以上かけてやってきて拝む景色がこれだとは信じたくなかった。
いつの間にかこの町らしい何かを見つけたいと必死になっていた。

母からは祖父の両親は両方とも矢吹姓で矢吹町は矢吹さんだらけの町みたいよ、と聞いていた。
しかしながらどの家の表札を見ても矢吹と名のつく家は見つからなかった。
矢吹すらないのかよ。

諦めかけて駅前のロータリーに腰掛けてアイスを食べているときだった。
観光客が珍しいのかおじいさんが話しかけてきた。
大きいリュックにコンデジ、そして矢吹町のマスコットキャラであるやぶキジくんのぬいぐるみを持っている僕は観光客丸出しだった。

どこからきたのか。なぜこの町にきたのか。
電車が来るまでの間、話をした。

駅のアナウンスが聞こえる。
まもなく電車が参ります。

おじいさんに最後の質問をする。
ちなみに苗字ってなんですか?

緊張と少しの期待感で胸が高鳴る。
おじいさんは戸惑いながら
「小林」
と答えた。


小林かよ。

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