【マレーシアの話2】この街には記憶がある
ジョホールバルの街についた。
一晩を過ごしたクアラルンプールの街と比べると建物もそれほど大きくなく、どこか薄汚れている。
TBSというクアラルンプールのバスターミナルを出発し、5時間の道のり。
バスチケットの買い方やどこのゲートからバスが出発するか、そもそもバスターミナルにどうやったら辿り着けるかなど、全てが手探りだったけれどマレーシアの方々の親切心を助けになんとかここまで来ることができた。
道中、すごいおっさんだと思っていた男性が自分より10個以上年下の学生と知った時は、老け顔にもワールドクラスがあるんだなと思った。
今まで日本で当たり前にできていたことができない。
相手の言っていることもほとんど理解できない。
こちらの思っていることも言葉にして伝えることができない。
自分はまるで赤ちゃんのようだった。
必死に手足を動かして、使ったこともないような顔の筋肉に力を入れる。
バスターミナルに着いたとき、チケットを買えたとき、親切にしてくれた人の名前を聞けた時。
何でもないことがとにかく嬉しかった。
ジョホールバルに来たのは、ある場所が目的だった。
ラーキンスタジアム
サッカー好きなら知っているかもしれない。
日本が初めてワールドカップ出場を決めたスタジアム。
岡野のゴールデンゴールが日本サッカーにとってまだ見ぬ景色にチャレンジする資格を手繰り寄せた場所。
僕はその時とても幼かった。
だから映像でしか見たことはない。
でも、何度も繰り返し見た。
先制するも逆転されてやっとの思いで追いついて、PK戦もちらつく延長後半終了間際に中田のミドルシュートのこぼれ球に走り込んだ岡野が滑り込みながらのシュート。
4年前にドーハの悲劇と呼ばれる敗退を経験した日本にとって、悔し涙を嬉し涙に塗り替えた瞬間だった。
その瞬間を想像すると鳥肌が立つくらい興奮する。
僕は今、そのスタジアムにいて、そのゴールマウスを目の前にしている。
観光客は僕一人だったけれどスタジアムガイドのおじさんは手を抜くことなく、熱心に説明してくれる。
オカダ ヒア!
ナカタ シュート!
オカノ ゴール!
キタザワ!!!
僕の英語力が拙いのが伝わったのだろう。
ワードだけであのシーンを説明してくれた。
最後のキタザワ!!!だけはどこのシーンだよと思った。
手入れされた芝生を撫でる。
少し湿っていてほのかにあたたかい。
あのゴールがどれほどの人の人生を変えたんだろう
ゴールを決めた岡野、再三チャンスを演出した中田、初めてのワールドカップ出場監督となった岡田、敗れたイランの選手たち、スタンドの観客たち、テレビの前のこどもたち。
今見ても鳥肌が立つ瞬間だ。
リアルタイムだったら自分はそのシーンをどう受け止めたのだろう。
人生には色々なシーンがある。
みなそれぞれ選択し進んでいく。
旅のスタートがここでよかった。
この旅が自分の人生をどう変えていくのか。
もう一度振り返って、ゴールマウスを目に焼き付けた。