【マレーシアの話1】俺の積み上げた人生はウォシュレットの前では役に立たない
飛行機は約6時間のフライトを経てクアラルンプール国際空港に到着した。
最初にマレーシアのクアラルンプールを選んだのは知り合いが住んでいて、数日案内するよと言われてたからだ。
ところが出発の1週間前に
「ごめん。マレーシアに戻るの6月になっちゃった」
というメッセージが入った。
だからクアラルンプールのだっだ広い空港でぽつりと
あれ、なんで俺ここにいるの、、
と途方に暮れている。
最初は現地慣れしている人に案内されながら海外に自分を慣らしていこうという目論見はあっさり崩れてしまった。
先の見えない不安にきゅっとお尻に力が入る。
この肩に爆裂に突き刺さっているバックパックもおろしたい。
何よりも便意半端ない。
これから始まる世界周遊に胸を躍らせる余裕も無いくらいにとにかくトイレに行きたかった。
広すぎる空港、どこに向かえばいいのかわからない。
空港のWi-Fiに繋いで色々調べたいけど身体に縛り付けられたフロントバックとバックパックのせいで携帯を取り出すのすら簡単にはできない。
よろよろと歩きながらようやくトイレに到着した。
そしてトイレを終えた時、僕のお尻含め下半身はびちゃびちゃだった。
マレーシア式のウォシュレットの洗礼を受けた。
トイレットペーパーは無く、便器の横にあるホースでお尻を流さないといけなかった。
プッシュ式で水を出す。
水量は0か100だった。
あまりにも強い水流がお尻を突き刺した。
当然跳ね返る。下半身全域がびちゃびちゃになった。
拭くためのトイレットペーパーもないから気持ち少し乾かしてズボンをズリあげる。
めちゃくちゃ気持ち悪い。
あぁ、俺は海外に来てうんこすらまともにできないのか。
自分の無力さを痛感する。
高校、大学、社会人と過ごしてきた時間、積み上げてきた経験、30年の人生をもってしてもマレーシアのウォシュレットの前では何の役にも立たない。
下半身に違和感を感じながら空港のエントランスを出る。
少し湿り気のある温かい風が頬を揺らす。
その風はやっぱり日本とは違っていた。
海外に来たんだなぁとじんわりと実感する。
僕の新しい生活がスタートする。
日本での生活がフラッシュバックする。
自分のいた場所、過ごした時間。
自分が抜けてぽっかりと空いた穴を想像する。
それでも時の流れがゆっくりとその穴を埋めて滑らかに世界は続いていくのだろう。
さて、これからどうしよう。
どこに向かおう。
どこに泊まろう。
確か、東南アジアで使えるUberみたいなアプリがあったはずだ。
それで一旦、中心街に出てホテルをとろう。
またも体に纏う荷物に苦労しながらスマホを取り出す。
電波なし。
あ、SIMカード買ってなかった。
こんなんでやっていけるのか。
先行きがものすごく不安です。