【ガールズバーの話5】あの子のスカートの中
歌川広重に代表される浮世絵の湯上り美人が「粋(いき)」だと言われるのは、その前後関係が見る側に委ねられていることによるらしい。
つまり、
湯上り美人画は被写体の女性がついさっきまで衣服を纏わず肌を露わにしていたことが暗示されており、僕らは画が切り取ったワンシーンからその前後のシチュエーションを自由に想像することができるわけだ。
このような解釈の自由さと可能性は西洋の作品には見られない日本特有の「粋な」表現のようだ。
僕はこの粋の構造を知って唸らずにはいられなかった。
たしかに、AV鑑賞をしていても真っ裸のシーンよりも少し衣服を纏ってたり、見えそうで見えないみたいなシーンの方がエロいもんな。
モザイクで隠されてた方がなんか神秘的な感じがしてエロいもんな。
僕は西洋の直接的な表現よりもこういった想像力を必要とする日本の間接的な表現がものすごく好きだ。
自分の主張を押し付けない奥ゆかしさを感じる。
12月も半ばを過ぎ、今年も残りわずかになってきた。
天王寺の街は年末へのラストスパート。
コロナ前の忘年会シーズンが確実に帰ってきていると感じる。
それは僕の勤めるガールズバーも同じだ。
確実に先月までより客数が多い。
僕は女マネージャー(鬼)のもと日々奔走していた。
いつもより大きい声で、いつもよりヒールの音を鳴らして、いつもよりつけまつ毛をビンビンに強調した眼で僕に指示を出した。
鬼は大鬼へと進化していた。
進化に限界などないのだ。
そんな忙しない日々の中、Yちゃんは学校の課題について語っていた。
北海道の稚内出身で、大阪の映像の専門学校に通う20歳。
恋愛が脳みその250%を占める他の女の子たちとは違う。
Yちゃんは俯瞰的に物事をみていて、いつも冷静だった。
男に対してもどこか冷めていた。
何回か人生やり直してるの?
Yちゃんが取り組んでいる課題はゲーム開発だった。
さすが映像の学校。
チラッと見えたデモ画面には
『Panchira』
と映し出されている。
二度見って本当にあるんだな。
しっかりと確認した。
間違いなくパンチラだ。
文字の背景にはスカートを履いたマネキン。
スカートが捲れてパンチラしている。
僕は画面から視線を外し、目の前のYちゃんをみた。
すごく真剣な表情。
少し誇らしげだ。
普段は冷静な彼女もパンチラについて語る時、いつもより口数が多かったような気がする。
つい先日、日本出国のチケットを買った。
目的地はマレーシア。
そこから無期限の世界周遊が始まる。
旅の中で色々な人と出会い、語り合うだろう。
人種、民族、宗教、政治
そして文化について。
時には意見が食い違いぶつかり合うことがあるかもしれない。
無視、批判、否定、差別。
だからといって僕は譲る気持ちなんてない。
これがジャパンだと声を特大にして言ってやる。
日本独特の「粋」の文化。
それは現代の若者にも脈々と受け継がれている。
見返り美人図からパンチラへ。
ジャパニーズカルチャーをしっかり海外の奴らに教えてやろうと思う。