【ヨルダンの話2】何もないということがそこにはある
空港で買ったSIMカードは一向に機能しない。
販売員は昼ぐらいには使えるようになると思うと言っていたがそんな時差式のSIMカードなんて聞いたことがない。
そんな中、ひかりさんに出会えたのは幸運だった。
午後の飛行便でエジプトに行くため、必要ないとのことでSIMカードを譲ってもらえた。
SIMカードがあるかないかで旅の難易度が全然違う。
とにかくありがたかった。
結局、空港で買ったSIMカードはいつになっても使えなかった。
できる限りの感謝を伝えようと彼女のタクシーが遠くに消えていくまで見送った。
たった数時間の出会い。
それが今後も長い付き合いになるんだから旅は面白い。
しょーちんとも同じ宿で出会った。
特に日本人御用達の宿でもないのにこんなにも日本人が集まるなんてヨルダンはパワースポットなのか?
看護師を辞めて世界一周に出ている25歳の青年。
髪を短く刈り上げ、タンクトップ姿に真っ黒に焼けた肌。
白い歯をにっと剥き出しにながら楽しそうに旅のエピソードを話してくれる。
彼からインドの話を聞けば聞くほど行きたくない気持ちとどこか惹かれる気持ちが交互に溢れ出してくる。
インドは本当に不思議な魅力に溢れる国だ。
そんな彼はアンマンにすでに数日滞在しているらしい。
何をしていたかというと宿のテラスから見える景色を見ながら一生タバコを吸っていたとのことだった。
日本の家のベランダでもできるやんそれ。
ただ「その街で暮らすみたいに過ごすことも旅だと思うんですよね」
という彼の言葉は、わざわざ来てるんだから何かしてないとなとか暇な時間をなるべく無くしたいなと思っていた僕にとってはかなり新鮮だった。
旅の形に正解なんてない。
昼までゆっくり寝る。
宿の調理場でお昼を作って食べた後はテラスでタバコを吸いながら街を眺める。
少し日が暮れてきたら、街に繰り出してご当地料理を食べに行く。
活気のあるダウンタウン。
すれ違う人が次々に声をかけてくる。
「どこの国から来たんだ?」
「ヨルダンはどうだ?」
「ようこそヨルダンに」
大人も子供もとにかく明るく笑顔だ。
異国から来た僕たちを快く受け入れてくれているような温かさを感じた。
「良くないですか?アンマンの街。」
しょーちんが言う。
後ろ姿だけど多分満面の笑みだろう。
サラリーマン時代、満員電車の中を目をつぶって音楽を聴きながら通勤していた。
道行く人の顔なんて覚えていない。
誰とも目を合わせずただただ毎日を週末に向かって進んでいた。
この国にはおそらく日本にあるものなんてほとんどないだろう。
ただ確実に日本にはないものがこの国にあるような気がした。
しょーちんと中東の名物料理であるフムスを食べる。
レンズ豆をペーストしたマヨネーズ状のものにオリーブオイルがかかっている。
酸味がありオリーブの香りが漂う。
生野菜のディップはかなり美味しかった。
この国にはフムスがある。
というかあり過ぎる。
サンドイッチを頼んだらフムスがしっかりそこにいる。
とりあえずフムスを入れてから他をどうするか考えようというスタンスなの?
流石にどの料理にもレギュラー出演するフムスはいくら美味しくても流石に飽きる。
宿から望む丘に広がるアンマンの夜景は綺麗だった。
テラスに腰掛け、しょーちんとタバコを吸いながら夜風を浴びる。
天ぷら食いてーなぁ。
日本にしかないものがやっぱり恋しかったりする。