【センチメンタルな話1】雪が見たいというのなら①

カタールワールドカップはアルゼンチンの優勝で幕を閉じた。
リオネル・メッシは自身のキャリアに唯一欠いていたワールドカップのタイトルを加え伝説となった。
自身最後と公言した大会で、メッシに憧れてプロになった若手選手たちと闘い抜いて優勝した。

小説みたいな筋書き。

このワールドカップは伝説の大会として語り継がれるんだろうな。

僕はふとひとりの台湾人の女の子を思い出した。
そういえば、彼女もアルゼンチンを応援していた。
今、どこにいて何をしているのだろう。

4年前のロシアワールドカップのアルゼンチン対アイスランドの試合だったと思う。
サッカーバーで出会った。
5席ほどのカウンターと2つの小さなテーブル席があるこじんまりとしたサッカーバーだ。

名前はシカといった。
20歳の台湾人留学生。腰辺りまで伸びた艶のあるロングヘアー。並行二重の綺麗な眼。しっかりとした眉毛は意思の強さを感じさせた。
ワールドカップという非日常のおかげか、狭い店内が物理的距離を縮めてくれたおかげかはわからないけれど、僕らは意気投合した。

半年前から日本に来て大阪の日本語学校に通っていること。
建築が好きで将来は建築士になろうと思っていること。
台湾でモデルのような活動をしていたこと。
そして、サッカーが好きで特にアルゼンチンが好きだということ。

僕らは何度もそのバーでサッカー観戦し、時には御飯にもでかけた。
シカの日本語はまだ曖昧で、僕の中国語も大学で1年ほどなんちゃって学習をした程度だったのでコミュニケーションは簡単にはいかなかった。
日本語だったらもっと自分の気持ちを彼女に伝えられるのに。
言葉を調べたりコミュニケーションに苦労したけれど、そういった不便さも楽しかった。

シカがくれた
『日本人は冷たいと思っていたけど、あなたは違う』
『あなたのおかげで日本が好きになった』
という言葉が嬉しかった。
もっと深く彼女と繋がりたいと思った。


そんなシカとの時間は長くは続かなかった。
ワールドカップも終わり夏が本格化しようとした8月の夜。
映画を見終えた僕らは大阪ステーションシティの和らぎの広場にいた。
シカは普段とは違う様子。
口数が少なく、なにか考え事をしているように見えた。
テラスのベンチに腰掛け少しの沈黙のあと、シカはいった。

『日本を離れることになった』

どうやら中国の大学への進学が決まったらしい。
1ヶ月後には日本を離れ、福建省の大学に入学する。

あまりにも唐突で僕はぼんやりとシカの顔を眺めるしかできなかった。
そして沈黙に耐えきれなかった僕は
『一緒に台湾旅行しよう!』
といつのまにか口走っていた。

シカは大きい眼をさらに大きくして僕を見ていた。
明らかに驚いている。

同じく僕も眼を見開いて驚いていた。
何言ってんの俺。

シカは少し笑って
『いこう』
と言った。

ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です